鈴鹿峠 旧道を歩きで登る

歌川広重の東海道五拾三次の現在の場所を探し、自転車で京から江戸を目指している。滋賀県土山宿(近江国)と三重県坂下宿(伊勢国)の間には、東の箱根、西の鈴鹿と呼ばれた東海道の難所、鈴鹿峠がある。自転車旅は成り行きで国道1号の鈴鹿トンネルを抜けるルートで進んでしまった。やはり旧街道の旅、旧鈴鹿峠を通ってみたい、という衝動に駆られた。

西の難所とよばれた鈴鹿峠は、滋賀県土山宿(近江国)側からアプローチすると、なんて事のない緩やかな坂道であっけなく峠を迎える。逆に三重県坂下宿(伊勢国)側からアプローチすると九十九折りの急坂を登る激坂難所となる。

ということで、三重県坂下宿(伊勢国)側からアプローチする。が、時間がないので片山神社からスタート。

まずは、片山神社を参拝。山の斜面に沿って石段が組まれ、急な石垣を下から眺めると木々に囲まれ荘厳な雰囲気が漂っている。

中段までの石段は整備され登りやすい。

中段には真新しい簡易なお社が建つ。左側には神楽殿があったようだが結局修理されず、今は更地になっている。

上段への石段はかなり危ない。

上段には空き地の突き当たりに小さなお社があるばかり。本殿は平成11年に焼失したようだ。裏山には国道1号の上り線(下り坂)が通り、トラックの唸りが山にコダマする。歴史の地が台無し。国道1号の建設の際、ルート設定したヤツは愚かなり。

鈴鹿流薙刀術発祥之地と刻まれた石碑を横目に、峠に向けて歩いていく。

ペン書きで、峠まであと600mくらい、とある。もっと遠いのかと思っていたので、正直物足らなくてがっかり。

古くは伊勢国の鈴鹿関から加太越えで伊賀へ抜けていた東海道だが、仁和二年(886年)に「阿須波道」と呼ばれる鈴鹿峠越えが新道として開通した。今昔物語に登場する「鈴鹿山」は鈴鹿峠越えを指している。

わりと歩きやすい石畳が続く。

山深く、天候の変化も激しい「八町二十七曲り」とよばれた九十九折りの急な山道には、かつては追いはぎなどの盗賊も出没した。坂道・天候・山賊と難所の条件三つ巴。

杉林の奥にコンクリート橋脚が聳え立つ。

山をえぐられコンクリートに固められた斜面にはコンクリート製の階段が続いている。これが歴史の道「旧東海道 鈴鹿峠」の無残な姿。

コンクリートのカタマリは国道1号線の上り車線(東京向き)の橋脚だった。歴史の道を無残にも削り取り、橋を架けるために橋脚を一本立て、コンクリートで山肌を固めてしまった愚かな国土交通省。

峠の下をトンネルで抜けてきた国道1号は、旧街道との交差部分の谷間を橋で越える。もう少しだけトンネルを長くして、旧街道を削り取らないようなルート設定は出来なかったのか。愚かな設計者に怒りが沸いてくる。

トラックばかりが目立つが、大して交通量は多くない。

峠まではもう少し登らなくてはいけない。

ほっしんの 初にこゆる 鈴鹿山 芭蕉。

整備されてしまった石段が続く。

石段脇に、馬の水のみ鉢が再現されているが、残念ながらコンクリ製。

ちょいちょい辺りでガサガサ、ガラガラという音がする。風かそれとも動物か、はたまたこの地で山賊に襲われた何かか。

崖が崩れて小石がパラパラ落ちてきている音だった。そういや足元には小石が転がっているし、落石注意の看板もある。

雪の残る枯葉の小道を登っていく。

視界が開けていそう。

随分と登ってきた。

山を削り、谷に橋を掛けて出来上がった国道1号。

旧街道、もうしばらく九十九折り。

静かな杉林を進む。江戸時代には松葉屋、鉄屋、伊勢屋、井筒屋、堺屋、山﨑屋といった茶屋が建ち並び賑わっていた。茶屋の石垣が残っているようだ。

左に折れると、かつては表面が鏡のように輝き、盗賊が旅人の姿を岩に映して襲ったという鏡岩がある。

杉林を通り抜けると前方は視界が開けてそうだ。農作業の軽トラが走った形跡で路面はジュクジュク。。

三重県と滋賀県の県境、昔風にいうと伊勢の国と近江の国の国境。つまりはここが標高378mの鈴鹿峠。今日は片山神社からだったので、西の難所と言われるほどの事もなく、寒いからか汗もかかず息切れも無くなんだか拍子抜けな気分。関宿辺りから登れば難所の実感が湧くかもしれない。昔は坂道・天候・山賊という条件が三つ揃っていて難所といわれたんだろう。

三重県側の九十九折りの峠を過ぎ、滋賀県側に入ると風景が一変した。穏やかな茶畑が一面に広がっている。

平らな道をしばらく進み、振り返ると三重県側は杉林。

いつしか道路は舗装され、東屋らしきものが見えてきた。

まごの杖はボランティアの杖

万人講常夜燈。重さ37トン、高さ5m44cmの自然石で作られた常夜燈。

滋賀県側の国道1号は穏やかに緩やかに土山宿へ向かって下って行く。

国道1号にはほとんどトラックしか走ってない、と言っても過言ではない。

滋賀県甲賀市。甲賀といえば忍者の里。

旧街道は峠から緩やかに下ってくる。こんなにも三重県側と滋賀県側で表情が違うのか。ここから土山宿まで大部分が国道1号に飲み込まれている。さて、がんばり屋のカレーうどんでも食べて帰ろかな。